NO.26 『AEDを設置しました』
ある日、沖縄に住む友人に電話をし、「大阪でアジがよく釣れるからこっちに来ないか?」と誘ったところ、早速次の土曜日、彼は私の家にやって来ました。翌朝、西宮市の武庫川一文字堤防にアジ釣りに行きました。ところが、見事に坊主。釣れなかったがために火がついた彼は、沖縄に帰ってすぐ歯科医師会の釣り大会に参加し、見事大物をゲットしたそうです。その夜、彼から電話が入り、「マグロが釣れるから沖縄においでよ!」と誘われました。私は船酔いに頭を悩ませながらもその誘いに乗ってしまいました。結果はご覧のとおりの大漁です。(5kg程度のキハダマグロ)この時から私とマグロとの付き合いが始まりました。以来、わたしはすっかりマグロに魅了されてしまいました。 マグロについて少しお話をしましょう。 マグロは泳ぐのを止めると呼吸ができず死んでしまいます。絶えず泳ぎ続けていて、眠っている時でさえも泳いでいます。そのスピードは実に早く、通常は40km/hから50km/hですが、全力で泳ぐと150km/hにも達すると言われています。大きさは、黒マグロでは体長3m重さ400kgにも達します。記録では4mで900kgのものが最大のようです。私がターゲットにしている[キハダマグロ]は体長2m重さ70kg程度です。釣り場で有名な場所は、津軽海峡[大間]、萩沖[見島の八里ケ瀬]、紀州沖[勝浦沖]などです。これらのポイントは日本を取り巻く海流(暖流)によって決まります。沖縄では久米島、与那国島などが有名です。 私は久米島を中心に沖縄地方を釣り場にしています。他の釣り場の多くは冬場がシーズンですので、寒さに備えての装備をしていかなければなりませんが、久米島のシーズンは夏ですので、そのような重装備の必要がありません。回遊魚であるマグロは夏場に食い気が立ち、海面浅くまで浮いてきます。また、この時期は産卵期でもあるので、産卵場所である沖縄南部に集まってきます。つまり、ゲットする確立が高くなるのです。また、沖縄地方では、ロープに浮きを付け、反対側の端に数トンの重りを付けた浮き魚礁(パヤオ)というものを海に浮かべています。 1982年から沖縄県が主導でパヤオを設置し始め、パヤオ漁が盛んになりました。パヤオにより、漁場探索の時間や労力が軽減され、回遊魚を効率よく獲ることができるようになりました。ここに藻やプランクトンなどが絡み付き、それを食べる子魚が集まってきます。そして、小魚を食べる2〜3kgの中程度の魚が集まり、またそれを食べる大きな魚が集まってきます。そうです、マグロが集まってくるのです。久米島では確実にマグロが釣れるのです。過去10年近くここで釣っていますが、一度も坊主はありません。また、釣れるのはマグロばかりではありません。シイラ、レインボーフィッシュ、カジキそしてサメなどです。 一度だけ大きな(70kg程)メジロザメを釣ったことがあります。 マグロの様に泳ぎが早くはないのですが、引きがとてつもなく強く、なかなかあがってきませんでした。格闘の後、釣上げ、船の上でしばらく観察をしていましたが、すぐ臭くなってきたので、海へ帰還させてあげました。 さて、釣りの一日の始まりです。
朝5時起床!前日は子供の遠足の様にドキドキして眠れません。まず酔い止めを飲みます。「アネロンニスキャップ」という酔い止めに出会ってからは[海の申し子]かと思うくらい船の上を元気に走り回ることができるようになりました。お勧めの一品です。 朝6時、沖縄県久米島の兼(かね)城(ぐすく)港を出港し、約2時間程度東シナ海へ進んだポイントが釣り場です。そして実釣!陽が沈みかけるまで延々糸をたらします。 夕方6時帰港。帰りの船では全員が疲れて爆睡! まるで海水浴帰りの子供のよう、起きているのは船長のみ。
釣りのことについてお話をしましょう。 マグロが餌に食いついて針にかかると、リールがほんの僅か「ヂヂ」と逆転します。リールには10kg〜15kg程度の負荷をかけているにもかかわらず、その後「ヂーーーー」とほんの数秒間に200m位ほぼ真下に糸が出ていきます。 30kg程度のマグロだとこの「ファーストラン」で終りますが、50kg前後になると更に糸が出ていきます。これを「セカンドラン」と言います。糸は40号(直径約2mm)のナイロン製か、30号(直径約1mm)のPE(新素材の糸)製を使用します。マグロは曳きが強いので、糸が早く出て行きます。その摩擦熱で切れてしまうのを防ぐために糸には十分水をかけます。 マグロの活性が良い時は水面付近に仕掛けをしますが、悪い時は水深200mあたりに仕掛けを落とします。釣り場の水深は1500m程です。この際によく起る事件があります。マグロの体温は摂氏20度位ですので、マグロに適した水温は体温よりやや低めの摂氏18度〜20度の水温が最適なのですが、針から逃げようと水深500m〜700m位まで潜ってしまうことがあります。
その辺りの水温は摂氏10度前後です。そうなると、マグロは急激に体温が下がり、運動能力が極端に低下し、動けなくなり呼吸ができず死んでしまうことがあります。これを「デス・ダイブ」と呼びます。 リールには常時10kg〜15kg程度の負荷をかけていますが、糸を巻き上げようとしても逆にマグロの重さで潮に流されて糸が出て行ってしまうこともあります。 そのような場合は、リールにかける負荷を増やすので、一本巻き上げると腕はもうブラブラです。 マグロが針にかかってから釣り上げるまでの時間はとても長いものです。1本釣上げるのに約1時間かかります。これを一日に何度も繰り返すので、船に乗っていると一日はあっという間に過ぎてしまいます。 港に帰ると釣り仲間と記念撮影。 そして宿で風呂に入った後は仲間との夕食会。この時に久米島の時間の流れを感じます。一分が一時間のようにゆっくりと過ぎてゆきます。景色も人もスローに見えます。何もかもがスローモーションです。 しかしながら、4泊5日の久米島釣行は一瞬の出来事となり、胸おどる往路の飛行機が現実世界へ引き戻す復路の飛行機に変わります。沖縄という地を借り、釣りという口実で老若男女が集まった楽しい旅でした。釣りだけが目的ではなく、仲間と共有するこのような時間と空間にも大きな楽しみを感じます。
残りの人生で味わってみたいところは、以前学会出席の際に訪れたアメリカ・フロリダ州マイアミ、「老人と海」の著者、アーネスト・ヘミングウェイが生涯を過ごした地、アメリカの最南端セント・キーウエストです。そこで、ヘミングウェイのように、釣りを楽しみ猫(私は猫ではなく犬)に囲まれ、余生を楽しむ好々爺でありたいと思っています。
え?釣ったマグロはどうするかって? 以前は現地で解体してから発送していたのですが、鮮度が落ち、味が悪くなってしまいました。マグロの皮が味をキープしてくれますので、それからは現地で氷詰めにし、宅配便で親しい友人に送ります。箱詰めされたマグロが一匹まるごと送られてくるのは圧巻です。頭から尾まで2m、重さは70kgです。 そんなマグロをご希望の方はお知らせ下さい。いつ、どのくらいの大きさのマグロが届くかを期待しないでいてくださる方に限り、お受けします。